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緑肥とは? 今こそ活用したい “生きた肥料” の使い方

23.05.08

社会情勢の影響やSDGs達成に向けた動きにより、

「肥料」を取り巻く状況は今、大きな転機を迎えています。

 

化学肥料に依存した体系から脱し、有機質肥料を活用していくことが求められているなか、

【緑肥】の活用は非常に有効な手段の一つです。

 

今回はそんな【緑肥】の種類や特徴、効果などの基本的な情報を簡単にまとめてみました。

皆様のより良い営農や、農業について考える際のヒントとなれば幸いです。

 

 

 

 

緑肥とは、主に有機物や肥料成分を供給することを目的として栽培する植物のことです。

種をまき育て、適期になったら茎葉を刈り込み(細断し)、土壌にすき込むことで、

新鮮な有機物を大量に土壌へ補給することができます。

 

そして、すき込まれた緑肥作物が土壌中の微生物によって分解されることで、

養分供給や物理性・生物性の改善などの土壌改良効果を発揮します。

 

 

 

 

 

緑肥に利用される作物は、【イネ科】と【マメ科】が主流です。

 

イネ科】は、「ソルガム」や「エンバク」「ライムギ」などがあり、

有機物の生産量と、土壌中の窒素・カリ成分の吸収力に優れます。

主作物栽培後、土壌中に含まれる養分が地下へと流れ出る前に緑肥が吸い上げ、

その緑肥が土壌にすき込まれることで再び栄養分を土壌へ供給することができます。

 

一方【マメ科】は、「ヘアリーベッチ」「クロタラリア」「セスバニア」などがあり、

最大の特徴は、特有の「根粒菌」の働きで「窒素固定」ができることです。

窒素固定により取り込んだ窒素は「根粒」に蓄えられ、すき込まれた時に土壌中へ供給されます。

 

 

また、「ソルガム」や「クロタラリア」等は、暑い時期の栽培に適し、

「エンバク」「ライムギ」「ヘアリーベッチ」等は、秋播きして越冬させたり、

早春に播き初夏までにすき込むのに適しているなど、

作物によって播種適期やそれに伴う刈り取り時期、腐熟期間(緑肥が土壌中で分解されるのに必要な期間)

などが異なるため、求める効果や栽培計画によって緑肥を選択する必要があります。

 

イネ科・マメ科の他にも、以下の表のような作物が緑肥として利用されています。

 

 

 

 

 

 

 

緑肥を導入することのメリットは様々ありますが、大きく以下の3つに分けてご紹介します。

 

 

 

 

 

★腐植率UPによる土壌改善

 

栽培した緑肥をすき込むことで、土壌に有機物を供給します。

有機物が増え、土壌の腐植率が高まることにより、

 

◆団粒構造の発達

◆透水性・保水性・通気性改善

◆CECの増加による保肥力向上

◆有用微生物の増加・活性化

◆土着菌根菌の増加

 

といった土壌の物理性・生物性の両面を改善することに効果を発揮します。

 

 

★作業の省力化

 

同じ有機質を補給する「堆肥」と比較して、緑肥は非常に省力的です。

ソルガムと牛ふん堆肥を施用した場合、ほぼ同等の有機物質蓄積効果が得られますが、

この時、堆肥はトン単位を運搬、施肥する必要があるのに対し、

緑肥はたった数㎏の種子を播種するだけで済むため、導入にかかる労力が大きく削減できます。

 

 

★土壌硬度・下層土壌の改善

 

緑肥の根は非常に深くまで伸びます。

深さ100㎝程まで伸びることも多く、「硬盤」と呼ばれる硬い土層(深さ15~30㎝程)

を貫いて伸びるため、硬盤の水はけを良くする、柔らかくするといった

機械による耕運や堆肥施用では成し得ない「下層土の改善」にも効果が期待できます。

 

これにより、主作物の根も深く張りやすくなり、広範囲から養水分を吸収できるようになります。

 

 

 

 

 

緑肥をすき込むことにより、それが持つ養分が土壌へと供給されます。

この養分は、マメ科の窒素固定に由来するもの、もしくは土壌から吸収されたものです。

 

 

★窒素

 

◆マメ科による窒素固定

ほとんどの植物は空気中の窒素ガスを利用することができませんが、

マメ科植物は先述のとおり、根に共生する根粒菌の働きで、窒素ガスをアンモニアに変換し、

養分として利用することができます。

 

◆イネ科などによる回収と供給

野菜を栽培している畑や堆肥を多用している畑では、作物収穫後も土壌に多くの養分が残っています。

これらは降雨によって地下深くへと流れ、次の作物が吸収できなくなってしまいます(溶脱)。

そこで、主作物収穫後、作付けの無い期間がある場合に緑肥を栽培することで、

溶脱前に養分を吸い上げさせ、それをすき込むことにより作土へと再供給することができ、減肥に貢献します。

 

 

★カリ

 

◆イネ科などによる回収と供給

カリも窒素同様、雨が降ると溶脱してしまうため、緑肥による回収と再供給が有効です。

緑肥の深く張る根が土壌下層にあるカリを吸い上げ、すき込みによって表層に還元されることで、

主作物が利用できない土壌深くにある養分を活用することができるため、減肥に繋がります。

 

 

★リン酸

 

リン酸は溶脱しにくいため、窒素やカリのように緑肥による再供給の効果は高くはありませんが、

ソルガムやエンバク等は10aあたり4㎏程度のリン酸を吸収・再供給することができ、

これは多くの作物が吸収するリン酸量に匹敵するため、減肥に結び付く可能性があります。

 

 

★土壌改良による効果

 

◆CEC増大による保肥力向上

CEC(陽イオン交換容量)は土壌が保有できる養分量のことで、有機物の供給はCECを増やすことができます。

CECが増えることで、土壌が保持できる養分量も増加するため、肥料の利用率が高まり、減肥につながります。

 

◆有用微生物の増殖・活性化による養分供給の促進

先述のように、緑肥のすき込みにより有機物が供給されると土壌微生物が増殖・活性化します。

この微生物の中には、有機態のリンを無機化し、作物が利用できる形に分解してくれるものや、

難溶性リン酸を溶解できるものがいるため、

こうした微生物の増加により、作物は土壌中の養分を利用しやすくなります。

 

 

 

 

 

★病害虫の抑制

 

緑肥の導入は輪作作物の種類を増やすため、土壌病害の軽減につながります。

また、緑肥の中には有害センチュウを抑制する効果を持つものもあります。

 

抑制メカニズムは主に、

 

◆不適寄主:センチュウは緑肥の根に侵入するが、寄主として不適なため生育できず増殖を抑制

◆殺センチュウ物質:植物体内で殺センチュウ物質を作ったり、根から殺センチュウ物質を分泌する

◆孵化促進物質:センチュウの孵化を促す物質を根から出し、センチュウは孵化するが寄主が不適なため餓死

◆生物燻煙:緑肥の持つ辛み成分が土壌中で分解され、土壌消毒剤と同じ成分のガスに変化し燻煙する

 

の4つがあり、複数の要素を併せ持つものもあります。

 

 

★雑草抑制

 

緑肥の茎葉が地面を覆い光を遮ることにより、雑草種子の発芽・生育を抑制します。

 

また、主作物栽培後に作付けする緑肥だけでなく、主作物栽培中の畝間や通路に栽培する

「リビングマルチ」としての利用も可能です。

雑草抑制の他、地温抑制や敷きワラ代替効果、害虫被害の軽減などが期待できます。

 

 

 

 

 

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このように、緑肥を導入することには様々な利点があります。

まだ利用していないという方は、ぜひ一度ご検討下さい。

 

緑肥の利用についてより詳しく知りたい方は、

農研機構HPに掲載の『緑肥利用マニュアル』をご覧いただくことをおすすめします。

 

 

以上、少しでも皆様の営農のお役に立てれば幸いです。

 

 

 


 

【参考】

農研機構HP「緑肥利用マニュアル -土づくりと減肥を目指して-」

URL:https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/134374.html

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