GAPとは、「Good Agricultural Practices」の頭文字を取ったもので、
一般的には「農業生産工程管理」と訳されます。
要するに「適正な農業のやり方で作物を生産しよう」という取り組みで、
その内容は私たちの作物栽培のやり方を「規制」するためのものではなく、
農業者を様々なリスクから守ることにつながる「規範」となるものです。
また、GAPに取り組むことは近年話題の「SDGs」達成に向けて
農業界からできるアプローチの一つでもあります。
今回は、【GAPの取組内容とは?】【どう社会に貢献できるのか?】 という2点について、
それぞれ概要をお伝えしたいと思います。
農業、そして皆様の今と未来を考えるきっかけとなれば幸いです。
*****************************************
「GAPの実施」とは、大まかに言うと「ルールを決め、それを守れているかチェックする」というこで、
もう少し細かく言うと「PDCAサイクル(※)を回すことで営農改善に取り組むこと」です。
※PDCAサイクル・・・Plan:計画 ⇒ Do:実行 ⇒ Check:確認 ⇒ Action:改善
Actionの後はまたPlanに戻る
言葉にすると難しいように聞こえますが、実際の取組内容は「整理整頓」や「作業手順の明確化」など、
どれも基本的な「当たり前」にやるべきことばかり。
その「当たり前」が当たり前にできているかを確認し、
できていなかったらできるようにしようという取り組みがGAPなのです。
では、「当たり前」にやるべきこととは具体的にどのようなことなのでしょうか。
次に、GAPの具体的な取組内容についてご紹介いたします。
GAPには5つの柱があります。
以下に5つそれぞれの取組内容を簡単にまとめてみました。
【具体的な取組例】
●作業場の照明に保護カバーをかける
⇒万が一作業中に照明を割ってしまった場合の破片混入を防ぐ
●農薬は施錠できる保管庫に入れ、流失防止のためコンテナ等に入れて保管する
⇒盗難され犯罪に使用されるリスクや、万が一農薬をこぼしてしまった時の健康・環境被害を防ぐ
【具体的な取組例】
●土壌診断を行う
⇒適切な施肥量を把握し健康な土壌を維持することで、環境への負荷を低減する
●IPM防除を実施する
⇒化学農薬だけに依存せず、人の健康リスクや圃場内外の環境への負担を軽減する
※IPM防除:天敵などの生物的防除、防虫ネットなどの物理的防除、殺虫剤などの化学的防除、
抵抗性品種の選定や施設内温湿度環境を改善する等の耕種的防除など、
利用可能な全ての防除手段を総合的に講じる防除手法のこと。
【具体的な取組例】
●危険な作業や場所、機械を把握し、危機を除去・低減するルールの設定と周知を徹底する
⇒事故や労働災害の発生を防止し労働者の安全を確保する
●エンジン停止、安全装置の設置、安全の確保などを徹底する
⇒慣れによる油断をなくし、不慮の事故を防ぐ
【具体的な取組例】
●労働者を雇ったら「雇用契約書」を作成する
⇒労働者の権利を保護するとともに、労働条件を明確にすることで労使間のトラブルを防止する
●「雇用保険」や「労災保険」への加入を検討する
⇒労働者の人権と健康を守り農場の労働力を確保するとともに、事業者のリスクを管理する
暫定任意適用事業場として労災保険に未加入であっても、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合には、労働基準法に基づき、事業者が必要な療養の費用を負担するといった災害補償責任が課されており、事業者のリスク管理の観点からも予め労災保険への加入を検討することが望まれます。
GAPに取り組み、事故のリスクを低減できているからといって、リスクがゼロになることはありません。万が一、労働者が事故に遭ってしまったときに労働者の人権と健康を守り、農場の労働力を確保するために労災保険への加入で準備しておきましょう。
農林水産省HP「これから始めるGAP」より抜粋(2023年2月取得,https://gap.maff.go.jp/)
【具体的な取組例】
●誰にでもわかりやすい農場の地図作成と周知
⇒事故や病気等で緊急搬送を要する場合などに、迅速・的確に救急車両を誘導できる
●作業記録を付ける
⇒作業を「見える化」することで、トラブル・問い合わせ対応や人材の確保・育成に役立つ
*****************************************
GAPに取り組むことは、農業者にとって非常に有意義なことであるとお伝えしてきましたが、
これらは世界的な目標である【SDGs】の達成にも貢献します。
農業界からSDGs達成に貢献できる主な分野として、
まず、農業とは切っても切り離せない【環境保全】について。
農業は環境に大きく影響を受け、環境へ負荷を与えます。
つまり、持続可能な農業のために環境負荷低減に努めることは、地球を守る事に直結します。
ですので、GAPの5つの柱のひとつ「2.環境を保全する」に取り組むことで、
SDGsの達成に直に、大いに貢献することができます。
次に【食料供給】と【雇用創出】について。
食は生命の根幹であり、その安定供給は持続可能な世界には必須です。
特に日本の食料供給に関しては、社会情勢の変化や感染症、異常気象など不安要素の多い現代において、
不測の事態が発生した場合の食料安全を保障するためにも
食料自給率を高めていくことが強く求められています。
また、世界的に見ても農業は雇用創出の場のひとつではありますが、
我が国の農業は深刻な「担い手不足」に直面しています。
先述の食料自給率向上に関しても、この問題を解決しないことには始まりません。
GAPにおける「1.食品の安全確保」に取り組むことは、食の安全安心を守ることに直結します。
また、「3.労働者の安全確保」「4.労働者の人権確保」によって農業従事者を保護すること、
「5.農業経営の効率化」によって経営の充実と教育制度の整備を図ることは、
既存の従事者の保護、次世代育成の効率化、そして新規参入のハードルを下げることにつながり、
我が国の農業の担い手確保に貢献するでしょう。
GAPの実施は、皆様の営農をより良いものにするための指針となり、
ひいては世界的な課題を解決することにも寄与します。
もしも今現在、まだ取り組めていない部分があれば、どれか一つからでも新たに始めてみませんか?
今回ご紹介した内容が、時代に合わせた営農について考える一助となれば幸いです。
【参考】農林水産省HP「これから始めるGAP」(2023年2月取得,https://gap.maff.go.jp/)